「全国一斉学力テスト」Q&A

京都市教職員組合

過度の競争を持ち込み、教育をゆがめる「全国一斉学力テスト」を中止せよ!

いま、国会では…

 安倍内閣と自民・公明の与党は、「教育基本法改悪反対、慎重審議」を求める広範な国民の声を無視して、教育基本法の改悪を強行しました。さらに、その具体化をすすめるために現在開会中の通常国会に、

     

  1. 義務教育の目標に「国を愛する態度」を入れ込み「内心の自由」をおかす学校教育法の改悪
  2. 教員免許に十年の有効期間を設け、講習を受けさせ更新を強いる教員免許法の改悪
  3. 国の教育委員会への指示・命令権を強化する地方教育行政法の改悪

など「教育改悪三法案」を提出し強行しようとしています。
 学力テストで子どもたちと教職員を競わせ、愛国心の強要で子どもから「内心の自由」を奪い、教員免許の更新で教師を服従させようとしています。このような「教育改革」が子どもの成長や父母の願いに反していることは明らかです。

 文部科学省は、この四月二十四日に日本全国の小学校六年生、中学校三年生、約二四〇万人の子どもたちを対象に「一斉学力テスト」を強行しようとしています。

 現在、父母・教職員、研究者などの中から、いっそう子どもたちを競争に追い立てるのではないかと危惧する声が上がっています。

 「全国一斉学力テスト」についてのよくある質問と、京都市教職員組合の見解をまとめました。ぜひお読みください。

 また、2007年2月26日に京都市教職員組合がおこなった、「『全国一斉学力テスト』に関する申し入れ」もお読みください。

Q1「全国一斉学力テスト」とはどんなものですか?A

 正式名称を「全国学力・学習状況調査」と言います。「教科に関する調査(国語、算数・数学)」「生活習慣や学習環境等に関する質問紙調査」を、全国すべての学校で、小六・中三生に、一日がかりで受けさせることになります。

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Q2「全国一斉学力テスト」の目的は何でしょうか?A

 文部科学省は、以下の目的で行うとしています(文科省HPより)

  • 全国的な義務教育の機会均等と水準向上のため、児童生徒の学力・学習状況を把握・分析することにより、教育の結果を検証し、改善を図る。
  • 各教育委員会、学校等が、全国的な状況との関係において、自らの教育の結果を把握し、改善を図る。

 しかし、ことの発端は、二〇〇四年十二月に発表された二つの国際学力調査で日本の子どものランキングが低下したことが、大きく報道されたことにあります。これに対し当時の中山文科大臣は、「日本の学力が低下傾向にあることをはっきり認識すべきだ」とし、学力のどの部分が低下しているか、その原因は何かなどの根本問題について、全く検討しないままに、総合的学習を見直すことや、授業時数を増やしいっそう「競い合う教育」をすべきであることなどを矢継ぎ早に表明しました。その結果、文科省は二〇〇六年度の予算に、全国一斉の学力テスト実施の費用を盛り込みました。

 「全国一斉学力テスト」はこの、「競い合う教育」を具体化しようとするものです。今までの文科省の教育政策のどこに問題点があったのかについては顧みようとせず、「競争」という安上がりの手段で、子どもたちを追い立てるものです。

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Q3この調査にはどんな問題があるのですか?A

 そもそも子どもの学習評価は、実際の指導に当たる教員と学校の権限と責任で行われるものです。国が一律につくったテスト問題での評価を各学校に強制したり、その点数での検証や比較することで、本当に子どもに学力がつくのでしょうか。

 この点での愛知県犬山市教育委員会の立場は明快です。

 「日々の授業改善に役立てるのであれば、授業の進行や子どもたちの実態に合わせて、学年・学級でやらないと意味がない。瞬間的に切り取った学力の一部を、半年後に示されて現場で使い物になりますか?」

 「犬山の教育のねらいは、人格の形成と学力の保障です。少人数学級・授業による、学び合いの授業を通して、豊かな人間関係をはぐくみながら、幅広い学力の形成に努めてきた。ここに競争原理を持ち込めば、学校は競争の場となり、豊かな人間関係をはぐくむ土壌をなくし、子ども社会や教師社会に格差を生じさせます。そして学校では人間形成よりもテストの点数を高めることが優先されるようになるのではないでしょうか。これまで、豊かな人間関係の中で人格形成と学力保障に努めてきた犬山の教育が、台無しにされてしまいます。全国一斉学力テストは、犬山の教育にとっては、無益どころか有害です。」(瀬見井久 ・犬山市教育長談話。「新聞全教」二〇〇七年三月二十号より)

 このように犬山市では今回の「全国一斉学力テスト」に参加しないことを一貫して表明しているのです。

 また文科省の言う目的から見ても、今回の学力テストのあり方はまちがっています。「状況を把握・分析」「結果の検証・改善」だけが目的なら、全児童生徒対象の悉皆調査をする必要はありません。「全国五万人を抽出調査すれば十分目的は果たせるはず」との教育統計の専門家の意見もあります。

 にもかかわらず、全国悉皆調査をするのは、各都道府県・市町村ごと、さらには学校ごとの点数を比較して、いっそうの競争をあおることが本質的なねらいである、と言わざるを得ません。

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Q4「全国一斉学力テスト」が実施されたら、京都市ではどんな影響が予想されますか?A

 すでに「学力向上チーム」をつくり「学力向上プラン」を立案せよ、との指示が市教委から各校に出されています。その指示文書には「学力向上」の手だてとして「習熟度別授業」「七時間授業」「帯タイムの活用」「補習授業」などが例示され、プランの成果を検証する手段として、京都市独自の「学力定着調査」「学習確認プログラム」に加えて「全国的な学力調査」が挙げられているのです。「全国一斉学力テスト」の点数を上げることを優先した教育活動を奨励するものになっています。

 実際、各学校では授業時間をさらに増やすことや、学力テストの点数を上げるための取り組みなどが検討されている、との声がよせられています。

 新旧の教育基本法に変わらず掲げられている「人格の完成」という教育の目標にそって私たちは日々の教育実践を行っています。犬山の例を引くまでもなく、私たちが子どもたちにつけさせたい学力は、全国一律のテストでのみ計れるものでは決してありません。今全国で、そしてこの京都でトップダウンで進められようとしていることは、点数で計れる「学力」のみを絶対視して、その点数競争に子どもたちを駆り立て、地域間・学校間の格差をあぶり出そうとするものであり、学力のあり方そのものをゆがめてしまう

ものです。

 私たちはこれらの理由で、「全国一斉学力テスト」の実施そのものに反対しています。

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Q5テスト用紙に自分の名前を書かせることが、問題にされているのはなぜですか?A

 今回の「全国一斉学力テスト」の実施は、「ベネッセコーポレーション」(小学校)、「NTTデータ」(中学校)に委託されています。「ベネッセ」は「ちゃれんじ」「進研ゼミ」などの事業を展開する企業、「NTTデータ」の「連携機関」は旺文社グループの一つ「(株)教育調査研究所」です。答案に個人名を書かせることによって、ベネッセと旺文社という大手の受験産業が全国約二四〇万人の子どもの個人成績データを手にすることができるのです。

 「Q2A」で紹介した「全国一斉学力テスト」の目的に照らせば、子どもの点数の全体傾向がわかればいいのであって、個人別の成績を収集する必要は全くありません。

 行政が調査を行う場合、調査の目的からみて必要のない個人情報を集めることは禁じられています。従来の京都市の「学力定着調査」では、データは個人名を抜いて市教委に提出しています。

 子どもの個人情報保護を訴える世論を受けて文科省は三月二十九日に、「氏名・個人番号対照方式」(氏名・出席番号の代わりに「個人番号」を書かせることで、個人情報の特定を防ぐ)をとることを例外として認める、という措置を発表しました。

 私たち京都市教職員組合は、京都市でもこの方式をとることを求める「緊急申し入れ書」を、四月三日に市教委に提出しました。

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Q6「質問紙調査」とはどんなものですか?A

 教科のテストの後に子どもたちに記入させるアンケート用紙のようなものです。テストそのものと同様に、個人名を書かせて回答させることを求めています。もちろんこのデータも「ベネッセコーポレーション」と「NTTデータ」が握ります。昨年秋に行われた「全国一斉学力テスト」の「予備調査」でも「質問紙調査」が行われています。その設問の内容には、「家に何冊本があるか」「家の人と一緒に旅行に行くか」「家の人と一緒に美術館や劇場などで芸術鑑賞をするか」など、子どもの家庭生活のプライバシーにかかわるものが多数含まれていました。さらに「自分は家の人に大切にされていると思うか」「先生から認められていると思うか」などと、子どもの内面に土足で踏み込むような質問まで設けられていました。これらの質問項目は、まさに調査の目的に不必要な個人情報であり、収集することは許されません。

 にもかかわらず、こういった個人情報を収集しようとするのは、子どもの家庭状況とテストの点数を突き合わせて、受験産業の顧客となりそうな子ども・家庭を抽出することがねらいである、と憶測せざるを得ません。

 文科省は、「実施校等から…プライバシー等への配慮が必要であるという意見があった」として、上記のような質問項目を削除することなどを検討している、としています。このような問題の大きい調査を行うことは、直ちに中止すべきです。

 「質問紙調査」はこの他に、学校長が記入する「学校質問紙」があり、「習熟度別授業を実施しているか」「職場体験学習を実施しているか」など、文科省がすすめる施策を誘導する意図がうかがわれるような項目も数多く含まれています。

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Q7各学校ではどんなことに取り組んだらいいでしょうか?A

 以上述べてきたような「全国一斉学力テスト」の実態や問題点が、まだまだ教職員の間でも知られていない状況が、各校にあるのではないでしょうか。当該の小六・中三の担任だけの問題にせず、すべての子どもの教育のあり方に関わる重大な問題として、以下のような点について、職員会議などの全教職員の場で議論をしましょう。

  1. 各学校で子どもにつけさせようとしてきた「学力」のあり方から見て、今回の学力テストで求められるような力は本当に子どもたちにとって必要なものかについて議論しましょう。とりわけ「学力向上プラン」の検証の手段として「全国一斉学力テスト」が挙げられていることの是非を検討しましょう。
  2. 学校間のランキング付けにつながるような安易な結果公表を行わないことを含めて、テスト結果の利用のあり方を慎重に検討しましょう。
  3. 子どもの個人情報を保護し、内心の自由を守る観点から、答案や質問紙に個人名を書かせることの是非を議論しましょう。

 

こちらもお読み下さい。「【声明】『全国一斉学力テスト』強行実施に強く抗議する」
(07.04.24) 
                       →「『全国学力テスト』中止を市教委に申し入れ」(07.02.26)

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