「特別支援教育」討議資料

ADHD、アスペルガーなど、

すべての子どもの発達を保障するために

必要な教職員配置などを

緊急に求めましょう。

2007年2月 京都市教職員組合

  (目次)
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(1)法制化された「特別支援教育」
(2)求められる「特別支援教育」のあり方
 ①教職員の共通理解の重要性
 ②すべての学校に「通級教室」の設置と専任者配置を
 ③育成学級での受け入れのあり方
(3)急がれる特別支援教育の体制づくり
 ①全く不十分な教職員配置
 ②教職員の共通理解のための校内体制づくりも急務
(4)分会から積極的に声を上げよう

 

(本文) 

(1)法制化された「特別支援教育」
 昨年6月に学校教育法が改正され、「特別支援教育」が初めて法制化されました。一昨年12月に出された「中教審答申『特別支援教育を推進するための制度の在り方について』」を受けて法案化されたものです。
 この「答申」は、長年の父母・教職員などのねばり強い運動、「個別のニーズ教育」という理念を定着させてきた国際的な運動の中で実現されたものです。通常学級に在籍する軽度発達障害(LD,ADHD,高機能自閉症、アスペルガー症候群など)の子どもたちの教育ニーズを、初めて法律の上でも認めさせたという点で、一つの前進ととらえることができます。
 一方、固定式の障害児学級(育成学級)については、「特別支援学級」との名称で当面存続することが規定されましたが、付帯決議で「特別支援教室」(通級教室)へ早期に移行することも求められており、今後の先行きは不透明です。また、盲・ろう・養護学校を「特別支援学校」としての再編、地域の障害児教育のセンター的な役割の付与も規定されましたが、各学校の専門性が損なわれ、学校の統廃合や教員定数の削減で、教育条件が低下することが懸念されています。
 何よりも、「答申」の積極面を生かすための教職員配置については今後の予算措置の裏付けが必要であり、条件整備を強く求めていく必要があります。また通常学級に在籍する軽度発達障害の子どもたちの指導のためには、あるべき支援の姿を、私たち教職員が実践を通して深めていかなくてはなりません。

(2)求められる「特別支援教育」のあり方
 
①教職員の共通理解の重要性

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 ここでは「軽度発達障害」とひとくくりにして呼んでいますが、高機能自閉症とアスペルガー症候群、ADHD、LD、それぞれに課題も配慮の仕方も異なります。同じ診断名が下されていても、子どもによって現れ方は千差万別です。ここに、軽度発達障害のある子どもへの、通常学級での学習支援の困難さがあります。それだけに、その子どもにどんな配慮が必要か、どのような接し方が必要かについて、専門家の力も借りながら、教職員の間で検討し共通理解を図る必要があります。
 通常学級の中で支援担当者がついて指導することが適当か、学級から抽出して別室での指導が必要か、場面によってその両方を使い分けることが適当かなど、専門家の診断や子ども自身の意思・保護者の意向もふまえながら、教職員の集団的議論を通して、柔軟に判断していくことが大切です。
 またこれらの障害のある子どもたちは、周囲の仲間との人間関係の持ち方(ソーシャルスキル)に課題があります。まわりの子どもたちとの関わりの中での適切な距離の取り方、不安定になったときの自分自身での対処の仕方などは、通常学級の集団の中での指導が必要です。また、その子どもへのまわりの子どもからの理解を促す指導も求められます。これらの指導のためには支援担当者と学級担任・教科担任との密接な連携が不可欠です。

②すべての学校に「通級教室」の設置と専任者配置を
 通常学級の大人数の集団での学習に適応することが難しい軽度発達障害の子どもにとって、通級教室の存在は重要です。特定の教科について定められた時間、通級教室に行って学習する、という形態が考えられますし、通常学級で学習していて不安定になった時に、クールダウンしてから教室に戻る、ということも可能になります。
 そのためには、独立した教室の確保、集中しやすいシンプルな教室の環境づくりや、ついたてなどで仕切って落ち着ける空間を設置することも大切です。
 何よりもここに来れば受け入れてくれる、理解してくれる、と子どもが感じられるような、専任の担当者が常駐している環境こそが不可欠です。現状では、保健室がその役割を果たしている例が少なからず見られます。しかし保健室は子どもの思いを受け止める場であっても、学習保障や集団適応などの指導をする場ではありません。専任の担当者が、担任をはじめとする学年集団と日常的に連携しながら指導していくことこそが必要です。
 これらの条件整備を実現するためのねばり強いとりくみが求められます。

③育成学級での受け入れのあり方
 育成学級は、軽度発達障害の子どもに比較してより重い障害のある子どもたちが学習する場であり、そのため少人数での学習環境と独自の教育課程の実践が保障されています。
 ところが、軽度発達障害の子どもが通常学級で学習することに大きな困難がおこり、臨時的に育成学級で受け入れざるを得ない、という例が見られます。少人数だから一人ぐらい受け入れても何とかなるだろう、などという甘い認識で、管理職が受け入れを強要してくるケースや、育成学級が2学級ある学校で一人の担任は通常学級への入り込み指導に回ってくれ、などという不適切な対応を求めるケースも報告されています。
 子どもの状態によっては、クールダウンの場として、あるいは学習補充の場として、育成学級で部分的に活動することが、適切な場合が考えられます。その場合でも、育成学級で受け入れるねらいは何か、どのような場面で受け入れるのか、育成学級本来の教育課程との両立は可能なのか、などについて、通常学級担任と育成学級担任はもとより、管理職も含めた全教職員の場での共通理解の下にすすめることが不可欠です。

(3)急がれる特別支援教育の体制づくり

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 以前から、軽度発達障害の子どもを持つ保護者より、「一日も早く特別な支援をしてほしい」との願いが寄せられてきました。法成立を受けて、その声はより具体的で切実なものとなっています。しかし、「軽度発達障害について学校が十分理解してくれていない」「有効な支援を何もしてもらっていない」などの不満の声も少なくありません。市教委の宣伝パンフレットを読めば、あたかもすべての学校に専任の主任やコーディネーターが配置されていて、個々の子どもの状況に応じた教育支援がすぐにでも受けられるかのような誤解を招く記述が見られ、結果的に学校への不信感を増大させている面もあります。
  軽度発達障害の子どもたちの発達保障のためには、今の学校体制はあまりに不十分と言わざるを得ません。
 
①全く不十分な教職員配置
 全国的な法制化とは別に今年度、京都府教委は府全体で100校に、週28時間(一部20時間)の非常勤講師の配置の予算を措置しました。その結果市内小中学校に、6月時点で34校、1月時点で57校に63名の非常勤講師が配置されました。パニックを起こしたり教室から飛び出したりする子どもに講師が関わって安定が図れているというケースもありますが、対象の子どもが多く手が足りないという実態や、本来の子どもの支援以外の指導に講師が使い回されている、という報告も聞かれます。
 一方文科省は、軽度発達障害の子どもの通級指導のための定数措置として、全国で二百数十名、京都市内には9名(小学校4名、中学校5名)の常勤講師を配置しました。実際には、独立した教室を用意しての通級指導が行われている例、通常学級への入り込み指導を行っている例があります。
 従来全く現場任せであった軽度発達障害の子どもへの指導に、初めて人的配置が行われたことは一つの成果ですが、全市各校にいる軽度発達障害の子どもの数から見れば全く不十分な数であると言わざるを得ません。さらに9校に配置された常勤講師は、周辺の学校に在籍する子どもへの支援の役割も負わされており、効果的な支援を行うにはほど遠い体制です。
 また、7校の総合養護学校に設置された「育み支援センター」でも、各小中学校に在籍する軽度発達障害の子どもへの教育支援の取り組みが始められています。子どもの様子を見てアドバイスをしてもらい参考になった、との声もありますが、文書の作成に手を取られるばかりで、アドバイスをもらっても今の学校体制の中では実行が難しい、等の意見も出されています。養護学校の中にすべての小中学校への支援を実施できるだけの十分な体制が作られているわけではありません。また、本来その養護学校に在籍する子どもの指導のための教員を使い回して、地域支援の組織が作られており、結果的に養護学校の教育条件の低下を招いていることも大きな問題です。
 軽度発達障害の子ども(診断がなくても指導上の困難を来している子どもを含めて)がいる学校にはすべて、常勤で専任の支援担当者を配置することが、緊急に必要です。
 人的配置を求める全国の運動の広がりの結果、文部科学省は来年度、全国で21000人の「特別支援教育支援員」の配置の予算措置を発表しました。これを実効あるものにさせる取り組みも求められます。
(文科省から都道府県教委への通知文書は→こちら)
 

②教職員の共通理解のための校内体制づくりも急務
 通常学級担任と支援担当者、コーディネーターなどの相互の連携、全教職員での共通理解の必要性を繰り返し述べてきました。
 しかし実際には、これらの話し合いを持つ時間すらない、という現場の厳しい状況があります。また、日常的な指導の負担に重ねて、「個別の指導計画」の作成などが担任のみにかぶせられている、等の問題点もあげられています。さらに、総合育成支援教育主任や特別支援教育コーディネーターのほとんどが学級担任
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との兼務であったり、持ち時間数軽減がなかったりする状態であり、本来求められる役割を果たせる状況ではありません。
 特別支援教育をすべての子どもの発達保障に不可欠な課題と位置づけ、研修や共通理解のための時間保障を、各校で最優先に取り組むよう、校内での議論を積み重ねていかなくてはなりません。

(4)分会から積極的に声を上げよう
 すべての子どもの学習と発達の保障に責任を負う教職員組合の立場から、各学校においては分会の果たす役割が大変重要です。そのために、

①すべての子どもたちの発達を保障する、支援のあり方について、職場で学習を深めましょう。
  
②分会会議で現状をまとめ、管理職や総合育成支援教育部会に積極的に働きかけ、共通理解を進めるイニシアティブを発揮しましょう。
  
③どのような支援が必要かを全教職員の共通理解の下に明らかにし、必要な教員の配置を管理職に強く求めましょう。
  
④教員配置の要望を「人事定員要求書」にまとめ、校長交渉を持ち、管理職も同じ立場で努力する立場に立つことを求めましょう。
  
⑤人事定員要求交渉(2/26)に参加し、現場の困難な状況と教員配置の必要性を、市教委に強く訴えましょう。